「清純派」の『ジョーカー』? ヒコロヒーが自身4回目となる単独ライブを開催

「清純派」の『ジョーカー』? ヒコロヒーが自身4回目となる単独ライブを開催

2019年10月に公開された『ジョーカー』は、公開直後から話題になり、あっという間に日本列島を席巻した。「アメコミの悪役の誕生秘話」というストーリーにも関わらず、アメコミに馴染みのない層はおろか、普段映画を観ない人たちでさえ劇場に足を運んだ。『ジョーカー』が大ヒットした理由は諸説あるが、全てに共通するキーワードは『怒り』と『共感』であろう。社会から疎外され、抑圧を受け続けてきた主人公に自分を重ね、その怒りに共感を覚え、彼が狂っていく姿に爽快感を覚えた観客は多いはずだ。『怒り』と『共感』は、2010年代以降の世界のあらゆる文化に共通するメインテーマだろう。

ヒコロヒーもまた、『共感』を呼ぶタイプのお笑い芸人である。何かに怒り、観客もまた、その怒りに共感する。だが、そこに生じるのは『ジョーカー』に登場するような悲観的な笑いではない。後者が「何かを壊すような怒り」だとすれば、ヒコロヒーの笑いが見せてくれるのは「その先で何かが生まれるような怒り」なのだろう。社会の理不尽さに怒りを覚えながらも、フラットな目線でそれに対峙し、ダサいものはダサいとはっきり一刀両断する。その清々しさに、観客は爽快感を抱くのだ。

今回は、通算4回目となる単独ライブを行うヒコロヒーに、これまでの賞レースについての感想をはじめとして、ピン芸人になった経緯や、今後の展望を伺った。

―――先日、『THE W(女芸人No.1決定戦THE W)』の準決勝に進出されていましたね。決勝では惜しくも敗退という結果でしたが、3年連続の準決勝進出は快挙だと思います。

ヒコロヒー:(今年は)初めて2日間(に渡る開催)だったんですよ。「2ネタできる」ということだったので、どのネタを持っていこうかすごく悩みましたね。普段のライブとはお客さんの感じとか会場の雰囲気もちょっと違うので、思っていた通りに行かない部分もあったのですが、結果としては悪くないというか、自分としては「後悔なくやれた」という感じです。

―――ついさっき、『M-1グランプリ』2回戦の追加合格が発表され、ヒコロヒーさんは「ヒコロヒーとみなみかわ」として3回戦に進出することが決まりました。『THE W』での活躍もそうですが、ご自身の「お笑い芸人としての実力」が上がってきているという実感はあるのでしょうか?

ヒコロヒー:いや、ないです。ないです、全然(笑)

―――ご謙遜されているのではなく?

ヒコロヒー:やっていることは昔から変わっていないんです。ただ、賞レースの結果が良かったおかげでチケットも売れて、周りの目がちょっとずつ変わってきているのかな、という気がします。私は自身が大幅に面白くなったとかは全然ないですね。

―――ようやく評価されるようになってきた、ということでしょうか。

―――ヒコロヒーさんは、キャリアの最初からピン芸人として活動されていますよね。大多数のお笑い芸人は、はじめはコンビを経験してその後にピンになるという道を歩んでいますが、ヒコロヒーさんはどうして、いきなりピン芸人になることを選んだのでしょうか?

ヒコロヒー:実を言うと、私も本当はコンビを組みたかったんですよ。(松竹芸能の)養成所にいたんですけど、その時に「コンビ組もう」って声掛けてきた人たちが、軒並み本当に面白くなくて……(笑)その誘いを断る時に、なんて言って断れば角が立たないか分からなくて「あー、すいません。自分、ピンでやっていきたいんで」って答えていたんです。最初は断るための方便だったんですけど、言っているうちに本当にピンが楽しくなってしまって、気が付けばそのままっていう感じですね。

―――『THE W』などは顕著ですが、最近は女性のピン芸人の活躍が目立っているように感じます。ヒコロヒーさんの所属している事務所(松竹芸能)でも、紺野ぶるまさんや河邑ミクさんなどが脚光を浴びています。そんな群雄割拠の中で、ヒコロヒーさんはどうやって突き抜けていこうと考えているのでしょう?

ヒコロヒー:なんですかね……。多分、最近の女芸人さんは煙草を吸ってないけど、私だけは吸ってるとか。みんな麻雀の打ち方も知らないと思うんですけど、私だけはすごい打てるとか。そっちの方で頑張ろうかなと……(笑)

―――煙草と麻雀。

ヒコロヒー:はい。それで、なんとかまくってきたので。

―――競馬も、ですね。ちなみに、麻雀はいつ頃からやられているんですか?

ヒコロヒー:生まれが田舎の方だったので、他に遊ぶものがなくて、小さい時から家族でやっていたんです。賞レースで優勝することはもちろん目標なんですけど、それ以上に『われめDEポン』に出たいです。やっぱり、加賀まりこさんと死ぬまでには一度打たせていただきたいなと思っています。

―――ぜひ実現させていただきたいです。

―――ふと思ったのですが、競馬や麻雀が好きだったりと、ヒコロヒーさんからは「昔ながらのお笑い芸人」のような雰囲気を感じます。若手の芸人としては珍しいというか。そういう価値観が、ご自身のネタにも反映されているのでしょうか?

ヒコロヒー:うーん、どうですかね。あんまり女性女性してないというか、男性でも女性でも関係なく見られるような感じだとは思います。(男女)どちらかに寄せずに「女性が見ても分かるし、男性が見ても共感できる」というネタになっているかな、と。

―――ジェンダーに関しては、ネタを作る際に意識されているのですか?

ヒコロヒー:性別的なことは意識しないですね。普段生きている時に、「自分は男だから」「女だから」と意識して自分の行動を決めることって、窮屈だし、面白くないと思うんですよね。でも、お笑い芸人の場合は、特に「女であることを意識してネタを作れ」って言われることがものすごく多いんです。(芸歴)1年目の頃からずっと言われていたんですけど、「別にそれで面白くもならないしなあ」と思って、ずっとモヤモヤしていました。だから、(性別的なことは)自分としてはあんまり考えていないですね。

ヒコロヒー:ちょっと前に事務所ライブで女子野球選手のネタをやらせてもらったんですけど、その時は、たまたま新聞で見かけた記事を元にしてネタを作ってました。女子のプロ野球リーグで、とあるチームが優勝したっていう話が、小っちゃい記事になって隅っこの方に載っていて、これが男性の普通のプロ野球リーグだったら、どこのチームが優勝しても一面を飾るじゃないですか? それが、ただ女子になっただけでこんな小さなところに収まっていて、「これは何なんだろう」という違和感からネタが生まれました。「いや、一面にせえよ!」と思うだろうな、って。

―――女性であることを利用したネタや笑いではなく、あくまでもフラットな目線で問題提起をしている、という印象を受けます。

―――ネタを作る時は、そういった着想を元にすることが多いのですか?

ヒコロヒー:そうですね。あとは、「怒り」ですかね。いつも衝動的に作っています。

―――どういうものに対しての怒りですか?

ヒコロヒー:お笑いとか関係なく、どの世界でも一緒だと思うんですけど、信じられないくらい意地悪な人っているじゃないですか。意地悪をして、誰かが困ったり傷付いているのを見るのが楽しくて仕方ない人。自分の立場を良くするためだけに平気で嘘をついたりする人とか、都合良く話をねじ曲げて自分の味方を増やそうとするのに必死な人とか。もう、そういうのは全員嫌いです。

―――理不尽な人間に対する怒りがネタとなって昇華されている?

ヒコロヒー:これはすごい自慢なんですけど、私の単独(ライブ)って男女男女比率が綺麗に5対5なんですよ。自分としては、男の人たちに人気が出るようなタイプでもないし、かといって女の人たちに憧れられるようなタイプでもないので、どうして均等に支持してもらえるのかすごく不思議だったんですけど、なんとなく分かってきたのが、みんな、怒って欲しいんだと思います。私が怒っている姿を見てスカッとしたい、みたいな。

―――ヒコロヒーさんの怒りに共感している?

ヒコロヒー:世間の大多数の人たちは、怒りを表明することも許されない立場にいて、言いたいことも言えなくて、ストレスを抱えながら我慢していると思うんです。でも、お笑い芸人は、そういう世間一般の常識の外側で色々言えるじゃないですか。だから、怒りのはけ口じゃないけど、好き勝手言ってる私を見て「こういうのもありなんだ」と思ってくれているんだと思います。

―――ちなみに、ヒコロヒーさんが最近一番怒ったことは何ですか?

ヒコロヒー:よくファミレスでネタを考えるんですけど、この前、隣の席にお爺ちゃんと多分その息子さんが座っていて、お爺ちゃんの方が一生懸命喋ってるんです。「お前はいつまで経ってもなんとかかんとかで」みたいな、ちょっと説教っぽいことを言ってるんですよ。でも、肝心の息子は「もう、ええねん」みたいな感じで、ずっと無視してるんです。あからさまに鬱陶しそうにしていて、その様子を見ていたら「もう少し優しくしたれや!」「誰にオムツとか代えてもらってるねん!」とか思って、すごく腹が立ちましたね。

ヒコロヒー:あと、ハロウィンの時に駅のホームで一番前に並んで携帯を弄っていたら、誰かに急に突き飛ばされたことがあったんです。結構激しく転んでしまって、パッて振り向いたら、ラムちゃんの格好をした女2人が「きゃはははは!」って笑いながらずっと指差してきて。片方のやつはまだ少しまともで「ホントすいません! ホントすいません! あんた、ヤバイよ。謝ろうよ」とか言ってるんですけど、全然帳尻を合ってないんですよ。ホームで突き飛ばされて「きゃははは」に対して、気のない「すいません」では全然つり合ってない。

だから、そいつのことをずっと真顔で見つめてたんです。そうしたら、少しまともな方が、段々とマジなトーンで「あ、すいません……。あ、すいません……。」みたいになったんですけど、もうひとりの方はずっと笑ってるんですよ。多分べろべろ酔ってるから何を言っても仕方なかったんでしょうけど、それでも、何か一言言ってやらないと気が済まないと思って、「まだまともな方の君はいいけど、そっちの君はそのラムちゃん全然似合ってへん」って言ったんです。その後すぐに携帯を見るのに戻りましたが、内心は「逆ギレされて、線路の方に突き飛ばされたらどうしよう」ってすごい怖かったですね。怖いけど、それを悟られるのが嫌だから堂々としていたんですけど……。

―――それは災難でしたね。まさにハロウィンの時にも感じましたが、最近は傍若無人というか、周囲の迷惑を考えない人間が増えているような気がします。個人的には、注意する人が減ったからモラルが低下しているのではないか、と考えることがあります。そういう時代だからこそ、ヒコロヒーさんのように「一言言ってくれる誰か」を、世間は求めているのかも知れません。

ヒコロヒー:私としては「良い」「悪い」じゃないと思うんですよね。大枠としての良い悪いはあるかも知れないけど、私はそれを裁く立場じゃないです。良い悪いっていうよりも、「品があるかどうか」で話を進めていったらシンプルになるんじゃないのかなって、私は思います。嘘をつくとか、意地悪をするとかも、良い悪いは知らないけど「ダサいな」っていう気持ちが強いですよね。

―――その見方は、ヒコロヒーさんにとっての「美意識」のようなものなのかも知れません。ヒコロヒーの今回のライブタイトルは『清純派』だそうですが、今のお話を聞いていて、「ダサいものから離れたい、遠ざけていきたい」という美意識の高さが『清純派』というタイトルに繋がっているのかな、と感じました。

―――今回が4回目の単独ライブということで、特に10回とかのような節目ではありませんが、何か今までと違うところや、「新しいことをやろう」という思いはありますか?

ヒコロヒー:追加公演も昼公演も決まって、「1日に同じものを2公演させてもらう」というのは初めてのことなので、「2回とも全く同じをことする」というのは愛想ないと思うので、両方で違うことをできたらいいなと考えています。あと、あと毎回単独(ライブ)ではVTRを作っているんですけど、笑ってもらえるかどうかは分からないんですけど、「これがヒコロヒーです」というものを作れていると思います。幸せになる、爽やかな気持ちになるライブです。爽やかな気持ちになりたいんだったら、ぜひ来てください。でも、苦情は受け付けられません。

ヒコロヒー単独ライブ
「清純派」

日時
2019年11月16日 (土)

出演
ヒコロヒー

公演時間
①13:30開場/14:00開演/16:00終演予定
②18:30開場/19:00開演/21:00終演予定

料金
前売2,000円/当日2,500円

チケット詳細
チケットぴあにて発売中

※昼公演のみ、11月14日(木)23:59まで、夜公演は完売。

Pコード 597-690 TEL 0570-02-9999

ご注意
未就学児入場不可。
客席内でのご飲食はご遠慮ください。
出演者が変更になる場合がございますが、それに伴う返金は致しません。

お問い合わせ
新宿角座 TEL 03-3226-8081