野沢雅子のモノマネで人気のアイデンティティ。ブレークしたネタが生まれた瞬間

野沢雅子のモノマネで人気のアイデンティティ。ブレークしたネタが生まれた瞬間

「野沢雅子ものまね」で革命を起こす

「アイデンティティ」とは「自己同一性」という意味の言葉である。噛み砕いて言えば「自分らしさ」のこと。自分が自分であると言える根拠となるものは何なのか。心理学の世界では、人は青年期にアイデンティティを確立すると言われる。

そんな言葉をコンビ名に掲げる田島直弥と見浦彰彦の2人から成るお笑いコンビ「アイデンティティ」は、皮肉にも、芸人としてのアイデンティティをなかなか確立できずに苦戦していた。漫才もコントも器用にこなし、ネタは面白くてライブではウケていたのだが、際立った個性が見えづらいところがあり、なかなか世に出るチャンスをつかめなかった。

アイデンティティ

偶然から生まれたネタ

そんな彼らの転機は、思わぬ偶然から始まった。ある日、見浦が居酒屋で声優の野沢雅子を見かけたという話をした。それを聞いて、もともと『ドラゴンボール』が好きだった田島は、その作品で主人公の孫悟空を演じている野沢の声真似を漫才に取り入れることにした。

すると、これが爆笑を巻き起こした。しかも、先輩芸人からも絶賛され、もっとそのネタをやった方がいいとアドバイスを受けた。そこで、彼らは本格的に野沢のものまねを軸にしたネタを作ることにした。田島は声を真似るだけでなく、かつらや衣装も身に着けて、見た目もそっくりにしてみせた。

すると、さらに大きな笑いが起こるようになり、ネタ番組やものまね番組にも呼ばれるようになった。田島は野沢雅子のキャラクターでバラエティ番組に出る機会も増えて、一気にブレークした。

声優を演じることの革新性

アニメのキャラクターの声真似をするということ自体は、ものまねとしてはそれほど目新しいものではない。だが、彼らが画期的だったのは、声を演じる「声優」自身をものまねの対象にしたことだった。野沢は誰もが知るベテラン声優であり、赤い髪の毛がトレードマークでキャラクターも立っている。そんな野沢を演じるという発想の転換によって、アイデンティティは独自の芸を確立した。

もともと彼らには面白いネタを作る才能があった。それを生かすことで、野沢雅子ものまねを上手く取り入れた漫才やコントを量産できるようになり、安定した笑いが取れるようになった。

今ではYouTubeチャンネルでも野沢雅子ものまねを生かした動画を多数公開していて、人気を博している。『ドラゴンボール』という超有名作品の力を借りて、無個性と思われていた2人がようやく自分らしさ(アイデンティティ)を見つけることができたのだ。

お笑いTVで、アイデンティティの関連動画を観る。