誰でも「フリーライター」になれる? ”ゴールデン街”流のライタースクールが開校

誰でも「フリーライター」になれる? ”ゴールデン街”流のライタースクールが開校

ゴールデン街に「日本一敷居の低い文壇バー」を構える若き店主でありジャーナリストの肥沼和之氏が、10月下旬からライタースクールを開校する。これまでにもマンツーマンのライター講座を行ってきた実績がある肥沼氏は、2016年に『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』と題した、ライター志望者向けの指南本を出版し話題を呼んだ。自身が経営するバーにおいても、若手のライターや編集者たちの悩みを聞くなど、後進の指導に励んでいるという。そんな肥沼氏は、すでに数多くの有名ライタースクールがある中、どうしてレッドオーシャンに飛び込もうと思ったのか。営業前の店内で話を伺った。

―――先日、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』を読ませて頂きました。これからライターになろうという方はもちろん、すでにプロとして活動しているライターが読んでも得られるものがある、とても充実した内容でした。

肥沼和之(以下、肥沼):ありがとうございます。フリーライターには、文章力や構成力のような「ライターとしてのテクニック」だけではなく、営業スキルや企画力、取材交渉などのテクニックが求められます。そこにフォーカスを当てている本は少ないと思うので、「もっとステップアップしたい」と考えているプロの方にも納得いただける内容になっていると思います。

―――今回は「指南本」という枠を越えて、「ライタースクール」という形でフリーライターになりたいと思っている方々を指導されるそうですね。まずは、肥沼さんがライタースクールを始めようとしたきっかけからお聞かせ願えますでしょうか?

肥沼:10月から新たに始めるライタースクールの前身として、これまでに「月に吠える(同氏がゴールデン街で経営するバー)」の中でライター講座を開催していたんです。マンツーマンで受講できるのが特徴で、50人以上の方に受けて頂きました。その講座をやっている間、遠方にお住まいの方々から「うちでも講座をやって欲しい」という声を頂いていたんです。

ライター講座に限らず、近年は様々な文化資本が東京に一局集中しています。僕は取材で地方に行く機会も多く、地方には地方の魅力や発信していくべき価値があると考えていて、「なんとかして、地方でも講座をやっていきたい」と思っていたんです。そんなタイミングで、映像の編集や配信に知見がある方と知り合う機会がありまして、オンラインでも受講できるライタースクールを開校する運びになったんです。

―――動画配信で講義が受けられるということでしょうか?

肥沼:はい、そうです。講義自体は新宿にあるレンタル会議室で行いますが、講義の内容はオンラインで生配信するので、世界中どこにいても受講することが可能です。また、講義の翌日からバックナンバーを配信するので、好きな時に試聴することができます。

―――つまり、実際に教室に行かなくても構わない?

肥沼:課題の提出や添削もオンラインで完結できるよう準備を整えています。「月に吠える」には、色々な事情から仕事を休職していたり、数年前まで家を出ることができなかったという方が、お客様としていらっしゃっています。そういう方々に自己表現として文章を書く機会を提供したい、ひとつの選択肢として「フリーライター」という職業を提案したいという気持ちもあるんです。

フリーライターというのは、資格も何も要らず、どこにいても、誰にでもなることができる職業であると考えています。その考え方を反映しているのが、オンライン受講という形態なんです。

―――「フードライター」や「コピーライター」のように、ある程度の専門性を持ったライター講座が多いように感じますが、肥沼さんが開校されるライタースクールは、なぜ「フリーライター」にこだわっていらっしゃるのでしょう?

肥沼:僕はフリーライターというのが、単に(雇用形態が)フリーのライター(という職業)以上の意味を持っていると思うんです。たとえば、ワークライフバランスという言葉が使われるようになって久しいですが、この言葉って「そもそも仕事というのは辛いもの」という前提があって、両者を切り離して、なんとか折り合いを付けながら私生活を楽しもう、という意味合いが強くなってしまっているんですよね。

これに対して「ワーク・ライフ・インテグレーション」という言葉がありまして、こちらは「仕事も人生の一部、人生も仕事の一部として楽しもう」というものなんです。せっかくの人生だから、どうせなら仕事も楽しんでやりたいと思うのは当然ですよね。僕はワーク・ライフ・インテグレーションを最も充実させられる職業のひとつがフリーライターだと考えているんです。

単に仕事だからというのではなく、自分の人生において興味を持てる事柄を取り扱ったり、取材をする。あるいは、私生活で飲み歩いている時に、ふとした会話をきっかけに「これを企画にしたら面白いんじゃないか」と思い付いたりする。自分の人生が仕事に支配されているんじゃなくて、仕事という側面を通じて自分の人生を豊かにできるような、それ自体がある種の「生き方」のような職業だと思うんです。

―――なるほど。いわば「生業」のようなものなのですね。

―――肥沼さんが本を出版なさってから、3年が経過しています。その間にライターを取り巻く環境はどのように変化していますか?

肥沼:誰もが文章を書けて、最低限パソコンを扱える。そうやって参入障壁が下がっていることの弊害として、搾取に近い形で働かされている方が増えているように感じます。クラウドソーシングに相場を遥かに下回っている単価の案件も散見されますし、そういった案件でも請け負わないと生活していけない方が増えているのも一因だと思います。安くても受ける人がいると分かっているから、発注する側もどんどん単価を下げてしまう。悪循環ですよね。

―――ライターにとっては「冬の時代」であると?

肥沼:楽観的なことを言って誤魔化すつもりはないです。出版業界が厳しいのは事実ですし、「紙の本が売れない」という嘆きは今後も続くと思います。しかし、そのぶんウェブ媒体での仕事は増加しています。ただ記事を書くだけではなく、セールスライティングやSEOの知識などを身に付ける必要はありますが、やり方次第では、この時代でも充分に生き残ることができると思っています。

―――教えるにあたって、肥沼さんが大事にされている事柄などはあるのでしょうか?

肥沼:本にも書きましたが、僕はまったく特別な人間ではありません。特定の分野に詳しいわけでもなければ、強い媒体にコネがあるわけでもない。お金もコネもない状態から試行錯誤を重ねて、現在のキャリアを作ってきました。今回のライタースクールでは、この「試行錯誤」の部分を、受講生の皆様にお教えしたいと考えています。もちろん努力と作業量は必要になるのですが、やりさえすれば、必ず一定の結果を出すことができる。誰にでもそれが実現できるという「再現性」を、最も大切なコンセプトにしています。

―――たしかに、努力の方向性を示してもらえると安心しますね。

―――具体的なカリキュラムは発表されていますか?

肥沼:月吠えライタースクールの公式noteTwitter上で公開しています。文章力を向上させる方法や企画の作り方はもちろんのこと、「取材交渉でイエスを引き出すテクニック」や「編集者から使いたいと思われるコツ」など、他のライター講座では中々触れないようなブラックボックス的な部分にも踏み込んでいきます。

―――どのような方に受講に勧めたいですか?

肥沼:「フリーライターになりたい人」はもちろんですが、今回のライタースクールは、特に「今まで一歩が出なかった人」に来て頂きたいと強く思っています。ライター講座のホームページを覗いたり、ライター向けの指南本を買ったりはするけれど、それでも「自分がフリーライターになるのは無理なんじゃないか」と思って尻込みしてしまう人は、決して少なくないと思うんです。新しいことに挑戦するのには、多大な勇気が必要です。背中を押すようなきっかけがなければ、最初の一歩を踏み出すことはとてつもなく難しいです。

僕が「月に吠える」に「日本一敷居の低い文壇バー」というキャッチコピーを付けたのは、「バーに行くのは怖い」「ましてや、文壇バーだなんて」という方々に安心してもらうために、こちらから半歩近付いてみようと思ったからなんです。今回のライタースクールも、それに似ています。講義は真剣ですが、それ以外の部分は気楽にやりたいと思っています。講義内容で分からないことがあったらいつでも気軽に聞いて欲しいですし、相談にも乗ります。動画で受講できるから、教室の雰囲気が苦手な方でも問題ありません。「日本一敷居が低いライタースクール」だと思って、気負わずにメールを送ってきて欲しいです。もちろん、講義はガチでやっていきますよ(笑)


 

入校の締め切り日は10月16日(水)、申込方法はwriterschool@moonbark.netへのメールで対応している。

詳細は、同ライタースクールの公式noteを参照して頂きたい。