ハライチ 「ノリボケ漫才」という新しい漫才の形を作り上げたコンビの強みとは
「ノリボケ漫才」の革命児
お笑いにおける基本的なテクニックの1つに「ノリツッコミ」というものがある。相手の言ったボケをいったん受け入れて(=乗って)からツッコミに転じる手法のことだ。あえてボケの直後にツッコミをせず、少し間を空けてからそれを行うことで、「ため」ができてツッコミで起こる笑いが増幅され、ネタやトークに緩急がつけられるという効果がある。
それでは、ツッコミをいったん受け入れる時間は、何秒までなら許されるのだろうか? たとえば、極端に長い時間、ツッコまずに乗り続けることは可能なのだろうか? そんなふうに「ノリツッコミ」という手法の限界を追求することで、新しい漫才の形を作り上げたのがハライチだ。
乗り続ける漫才スタイル
彼らの漫才では、岩井勇気が一定の語感を持つ単語で、相方の澤部佑に話を振り続ける。澤部は、それに対して一切ツッコミを返さず、延々とそこに乗り続けるのである。
たとえば「学生時代に部活のエース的な存在はモテたよね」という話題から始まる漫才では、岩井は最初のうちは「野球部のエース」「バスケ部のエース」などとごく普通の単語を並べる。しかし、少しずつ「駅前のコーポ」「針金のアート」「縦笛のセール」と、部活動とは何の関係もない単語を連発していく。
それでも、澤部は岩井のボケに必死で食らいつき、全身を使ってそれを表現しようとする。脈絡のないことを延々と肯定し続ける澤部の姿が笑いを生む革新的なスタイルだ。
ハライチの漫才では、細かいセリフが決まっておらず、澤部の乗り方は演じるたびに微妙に変わる。そのため、同じネタを何度見ても楽しめるというのも大きな魅力だ。
そんな彼らの漫才は「ノリボケ漫才」と呼ばれ、デビューして間もなく脚光を浴び始めた。2009年には漫才の祭典『M-1グランプリ』で決勝進出も果たした。
コンビで帯番組MCを務める
その後、テレビ出演の機会も増えていき、2010年に始まったフジテレビの深夜バラエティ『ピカルの定理』のレギュラーメンバーにも選ばれた。
その時点では将来有望な若手コンビに見えていたのだが、徐々にバラエティへの適応力が高い澤部の仕事ばかりが増えていき、岩井をテレビで見かける機会は減っていった。
だが、そんな岩井もテレビ東京の『ゴッドタン』で「腐り芸人」として紹介されたことをきっかけに、再びバラエティの世界に返り咲き、仕事を増やし始めた。2023年1月にはハライチがMCの昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ)も始まる。
一時期は開いていたコンビ格差がなくなり、ハライチがコンビとして本当の意味で輝き出すのはここからだろう。