お笑い界の藤井聡太が現れない理由
いま世間を騒がせているのが、プロ将棋の世界でデビューから無傷の28連勝を達成した藤井聡太四段です。28連勝はすでに歴代タイ記録ですが、デビューからの達成というのはもちろん前代未聞。史上5人目の中学生プロ棋士でもあり、彼はどこからどう見ても紛れもなく「天才」なんですよね。
将棋もお笑いも好きな私の立場から言わせてもらえば、藤井四段のすごさをお笑い界で例えると、「デビュー1年目で『M-1グランプリ』優勝」ぐらいの感じかなと思います。これって、まずありえないですよね。デビューしてすぐにチャンスをつかんで売れるとか、小規模なお笑いの大会で優勝するとか、レギュラー番組を持つとか、そのぐらいのことはこれまでにもあったかもしれませんが、いきなり『M-1』優勝はさすがにない。
お笑いでそれを達成するのがなぜ難しいのかというと、やっぱり、舞台で笑いを取るにはある程度の経験の蓄積が必要だから、ということかなと思います。もともと発想力があって、デビュー当初から面白いネタを考えられる芸人というのは今までにもいたでしょう。ただ、舞台上でそれをどう表現するかということに関しては、どうしても慣れが必要なのではないかと思います。
何でもそうなんですが、「練習」と「本番」は別物なんですよ。お笑いでは、お客さんを目の前にしてネタをやる状況を頭の中で想像して準備していったとしても、本番はそれとは違うわけです。会場によって、客層によって、ネタに対する反応も変わるし、ウケ方も違ってくる。本番でうまくできるようになるためには、本番の場数を重ねるしかない、というところがあるのではないでしょうか。
それを踏まえて将棋の話に戻ると、なぜ藤井四段が優れているのかというと、すでにプロ並みの勝負師としての駆け引きの感覚を持っているように見えるからなんですよね。
将棋というのは、単に一番いい手を考えて一直線に指していくだけのものではありません。片方にミスがあれば、もう一方はそれをとがめようとする。また、形勢が不利になったときには、そのまま進むと負けてしまうから、あえて最善手ではなく局面を複雑にするような手を指したりして、相手がミスをする確率を少しでも上げるような手を指すことが必要だったりする。将棋で勝つというのは、そういった泥臭い駆け引きを制するということなんですよね。
藤井四段は、プロを相手に現に勝ち続けている。ということは、すでに「勝負師」としても相当高い水準に達している。この点が特にすごいところなのだと思います。すでにデビュー当時のオリラジ以上の勢いで快進撃を続けている藤井四段。彼こそが将棋界の「Perfect Human」です。