青木さやか 不器用にもがきながらも、素朴な問題意識に立ち向かうマルチタレント

青木さやか 不器用にもがきながらも、素朴な問題意識に立ち向かうマルチタレント

迷走するアラフィフ女性芸人

青木さやかとは何者なのか? この問いに正確に答えるのは難しい。普通に考えるなら、彼女は「芸人」のカテゴリーに属する人間である。だが、本人にその自覚が足りないようなところもあり、なかなかつかみどころがない。青木のこれまでの芸人人生をたどりながら、彼女の占めている特異な地位について考えてみたい。

『爆笑オンエアバトル』『エンタの神様』などのネタ番組に出始めた頃の「ピン芸人・青木さやか」は、率直に言って、あまりぱっとしない感じの芸人だった。当時の彼女は、少し毒のある1人コントを演じていたのだが、ネタの質が本人のキャラに合っていなかった。無理に理想を求めて背伸びをしているような印象がぬぐえず、シュールなネタや過激なネタに対する彼女の強い憧れだけが伝わってきた。

マネージャーの助言で才能が開花

その後、青木は、ある時期から急速に仕事が増え始めた。そのきっかけに関しては、彼女の自伝『34 だから、私は、結局すごくしあわせに思ったんだ』(光文社)にも詳細に記載されている。

当時、青木を担当していたマネージャーが、彼女の「どこ見てんのよ!」というギャグの効果的な使い方や使うタイミングなどを細かくレクチャーした。青木がそれをなぞって収録に臨んだところ、作戦がことごとく成功して爆笑の渦を巻き起こした。こうして、共演する女子アナやアイドルに強気に食ってかかる青木の芸風が確立された。

青木の第二の転機となったのは、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)のドッキリ企画である。ここで、大がかりなドッキリに何度もはめられて、その度に新鮮なリアクションをとる青木の姿が評価された。ドッキリは回を増すごとにエスカレートして、青木は付き合っている彼氏をテレビで公開されたり、セクシー写真集を出版されたりして、何度も大きな注目を浴びた。この番組で、青木はいじられ役として新たな魅力を引き出された。

また、この時期から少しずつ、青木のキャラにも変化が現れ始めた。テレビに出始めた頃には、無理に強気に振る舞う彼女がどこか空回りしているように見える瞬間も多かった。だが、青木は次第に、そんな自分の姿を素直に受け止めるようになってきた。不安や劣等感を下手に包み隠さず、それをさらけ出していくようになったのだ。

芸能界と一般社会の境界を売り物に

「自分には芸人としての覚悟も才能も足りないのかもしれない」などと思っていることを認めて、それでも必死でがんばる姿を売り物にしようと試みた。いわば青木は、芸能界と一般社会の境界に立って、どちらにも馴染めないという感覚そのものを切り売りしてここまでやってきたタイプのタレントなのである。

「自分はこの仕事に向いていないのではないか?」
「女としての幸せって何なのか?」

恐らく青木は、日々このような不安を抱えながら生きている。だが、こういったことは、現代を生きる成人女性ならば、多かれ少なかれ誰でも持っているような素朴な問題意識なのだ。

執筆業でも活躍

青木は、いつまでも答えを出せないまま、不器用にもがいている。そして、そんな彼女の姿が、テレビの前で同じような意識を抱えている人間の心に刺さる。最近では主に執筆業で自身の卒直な考えを発信している。

安直な「成功体験」ばかりが語られがちなショービジネスの世界の中で、それに対してどこまでも居心地の悪さを隠さない青木は、芸能界でも異色の存在だ。謎の空回り芸人・青木さやかの正体は、世知辛い浮き世をさすらう成人女性たちにつきまとう不安の化身なのである。

お笑いTVで、青木さやかの動画を観る。