永野 「孤高のカルト芸人」と呼ばれた異端の存在

永野 「孤高のカルト芸人」と呼ばれた異端の存在

日本一メジャーなカルト芸人

ピン芸人の永野は、お笑いライブ界ではずっと前から一目置かれる存在であり、「孤高のカルト芸人」と呼ばれていた。彼の人気に火がついたきっかけは、2014年に『アメトーーク!』の特番に出演したことだ。山崎弘也藤本敏史が、後輩芸人のネタを見てそれを好き勝手にパクってアレンジしてしまう「ザキヤマ&フジモンがパクりたい-1グランプリ」という企画の中で、永野は当時売り出し中だった「ラッセン」の歌ネタを披露した。

その少し前から、斎藤工、小嶋陽菜など、有名芸能人がこぞって永野を激賞していた。何人かのタレントに認められたことで、彼らのファンを中心にして一般層に少しずつ永野の名前が知れ渡るようになった。そして、『アメトーーク!』をきっかけにして、その人気は揺るぎないものになっていった。

説明不能なネタの数々

永野のネタは謎に満ちている。ヒット作となった「ラッセン」も、「ゴッホよりラッセンが好き」ということを大声で歌いあげるだけの代物だ。「これのどこが笑えるんだ」と誰かに真顔で問いかけられたら、私もきちんと答えられる自信がない。

また、それ以外にも「前すみませんばかりやってたら最後イワシになってしまった人」「富士山の頂上から二千匹の猫を放つ人」など、永野のネタはタイトルからして謎めいたものばかり。どれを取ってもまともに説明可能なネタがない。

永野のライブには何度となく足を運んでいるし、彼のネタで大笑いしたこともある。それでも、彼のどこがどう面白いのかと尋ねられたら、わかりやすく説明することはできない。そもそも、永野自身が、そういったこざかしい後付けの説明を拒否しているようなところがある。

永野とは、あらゆる解釈や説明を呑み込んでしまうブラックホールのようなものだ。それでも、本稿ではあえてその深淵に迫ってみることにしたい。

カルト芸人の中でも異質だった

永野はもともと「カルト芸人」と呼ばれるタイプの芸人だった。「カルト芸人」という言葉に明確な定義があるわけではないが、単純に人気がない芸人、多くの人に理解されづらいような間口の狭いネタをやる芸人、どぎつい下ネタやタブーに触れるネタなど、テレビではできないネタを好んでやる芸人などが「カルト」の名のもとに語られることが多い。

そういう意味では、永野は典型的なカルト芸人だった。ただ、彼がそこらのカルト芸人と一線を画すのは、決してメジャーな舞台から目をそむけていたわけではない、ということだ。いわゆるサブカルチャー(サブカル)的なものには普通、メジャーなものに対する嫉妬や憧れが幾分か含まれているものだ。

つまり、メジャーになりたいけどなれないからこそ、メジャーにツバを吐いて自分たちのようなマイナーな存在にこそ価値がある、と虚勢を張ってみせる。サブカルの根底にはそういうひねくれた精神性が潜んでいることが多い。

ところが、永野にはそういうところがほとんどなかった。むしろ、彼はお笑いライブという狭い世界で優劣を競い合うような風潮こそを忌み嫌い、早くテレビの世界で売れたい、と事あるごとに口にしていた

彼はメジャーへの反発としてマイナーを気取っているのではなく、たまたま売れていないからマイナーという扱いを受けていただけなのだ。彼は「カルト芸人」と呼ばれる人の中でもさらに異端の存在だった。

一般的なイメージに当てはまらない独自の道を歩んでいたからこそ、理解されない不遇の時代が長かった一方で、ブレークしてからもそれなりに活躍を続けることができたのだ。

メジャー志向で異端のカルト芸人・永野は、業界という足場を固めて、世間という大海に乗り出した。かつては「地下芸人」だったマヂカルラブリーが『M-1』で優勝したり、地下ライブで熱狂的な支持を受けていたランジャタイがブレークするなど、お笑い界の地殻変動は続いている。永野の起こした「革命」は今なお進行中なのだ。

お笑いTVで、永野の動画を観る。